幼い頃、野菜と言えば「ばぁば」だった、様な気がする。
私が18歳になることには、もう十分な老人だったばぁばは、台所仕事などはいっさいしなかったけれど、
食卓に並べられた野菜をポクポクと食べる姿をみて、野菜とばぁばって雰囲気いいなぁと思っていた。
ばぁばにとって女子孫は私だけしかいなくて、私はとてもばぁばに可愛がられた。
どういった事情で家にいたのかわからないけれど、私が小学生の頃随分長い間ばぁばは家にいた。
居たというより「住んで」いた。
時代劇を観るばぁば、ママとキッチンに並ぶばぁば、ママはしないお針ごとをするばぁば。
小さくて丸い彼女の姿を、7歳くらいの私はパパやママのシルエットと違うなぁって思っていて、
やたらばぁばたらしめていてその姿をじっと観ていた。
そんなばぁばと毎晩布団を並べて寝た。
寒がりなばぁばは、その当時布団で暖を取ると言えば絶対必要だった電気毛布をしっかりと入れ、
毛布だの羽布団だのをかけ、シーツはムートンだった。
もちろん、孫の私にも寒がらせたら風邪を引いてしまうという理由で同じように電気毛布、かけ毛布、
羽布団、ムートンシーツでくるっと孫の小さな身体をくるんだ。
「昔々あるところに・・・・。」
ばぁばは寝る前にお決まりの昔話を聞かせてくれて、私はそれを子守唄に眠りについていた。
眠れなかった。
話し終わって、気持ち良さそうに小さないびきをかくばぁばの規則正しいリズムは、
私を眠りに誘うのだけれど“暑さ”が小さな私を起して来る。
口もカラカラに乾いて、ネルのパジャマの下は汗びっしょりなっている。
かけ毛布も羽布団も重たい。
どんなにばぁばの愛情がこの布団環境だとしても、私は這うようにずるりと抜け出し、ママのところへ行った。
「ママ〜。暑いのー。うえーーーん」
汗びっしょりでおでこに張り付く髪の毛が気持ち悪くてだったのか、小さいながらもばぁばの愛情に応えられない自分を責めたのか、
私は泣いた。
それなのに、ママもパパも大笑いするだけで「ばぁばったら。」と言うばかり。
髪の毛を拭かれ、身体の汗を拭ってもらって、新しいパジャマを着せられて、その夜はばぁばの隣ではなく自分の部屋で寝た。
次の日、『昨日の夜は暑かったみたいで、この子汗びっしょりだったわ。」とママに報告されていた。
「それは悪かったと〜。そやけん朝起きたら横におらんかったんね。どげんしたかと思っとったぁ。」
ニコニコ笑いながらばぁばは私の方を見て、今夜は汗かかんようにするけんね。と言った。
その笑顔は、私の気持ちを軽やかにするには十分で、その夜からまた布団を並べて寝る楽しみをくれた。
ばぁばの傍にいると、その発せられる小倉弁に乗って、ゆっくりと時間が流れているような感じを
小さいながらもおぼろげに感じていた私はばぁばとの時間が大好きだった。
いつまでも消えない畳やい草のような香りをいつも漂わせていて、匂い袋を下着に忍ばせていたばぁば。
貝殻の形でちりめんのような生地で包まれたそれを見つけた時、ばぁばに欲しい欲しいと随分せがんだりした。
「それはばぁばのだぁ〜いじな匂いやけん、あげられんとよ。」
ニッコリ笑ってそっと自分の身体の沿わせるばぁばの所作が忘れられない。
ばぁばの今思い出せば小さな手の中で、里芋が剥かれ、ほうれん草が茹でられ、鰹節が踊っていた。
私が20歳の時に亡くなったばぁば。
小倉小町と呼ばれ、街一番のプレーボーイだったじぃじに見初められたばぁば。
棺の中に真っ白な薔薇と一緒に横たわるその顔は、老人ではなくうら若いこれから人生を花開かせる顔だった。
その美しさが、ばぁばの人生だったんだと思っている。
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【蒸しじゃがいものおばあちゃんのアンティパストかけ】
とてもシンプルなのだけれど、とびっきりに仕上がります。
(2人前)
じゃがいも … 4〜6個
にんにく … 1片
ローズマリー … 1〜2枝
おばあちゃんのアンティパスト … お好み
<作り方>
1.じゃがいもの皮を剥き、1cmくらいのスライスにする。
2.にんにくの皮を剥き、芽を取りつぶす。
3.スチーム容器に1と2、ローズマリーを入れ、3〜4分チンする(600W)
4.3を器に盛り、おばあゃんの野菜ソースをたっぷりとかける。
ROMAKO の紹介
エッセイスト/料理研究家/フードアナリスト/Jr.オイスターマイスター
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『食べることは生きること』という信念を持って、イベント目線で日々の食をエッセイで綴る、簡単で食材の組み合わせに驚きのあるレシピを、ベル・グストの食材を使って提案します。