ジムのトーレーナーがオーストラリアに行っていたと言い、こってこてのオーストラリを満喫したと笑う。
コアラの抱っこが一番だったらしく、ふにゃふにゃな顔になって「超可愛かった〜〜〜。」とため息をつく。
カンガルーは?
カンガルーのボクシングとかは見なかったの?
と、カンガルーネタを求める私に、トレーナーは「あいつら、超おっさんで、寝転がって本当にお腹をぼりぼり掻いて、
おならするんですよ〜。呆れました。コアラとは大違い。」と、比較対象がおかしい話をする。
実は私、根拠は全くないのだけれど、カンガルーに親近感がある。
超おっさんなカンガルーを知ったのは大人になってからだから、そこが親近感ではないのだけれど、
実家に帰ると未だに飾られているカンガルーのぬいぐるみが、持っている親近感を思い出させる。
そのカンガルーは、子どもがお腹の袋に入っていて、目がくるんとした可愛いカンガルーだ。
だからと言ってマンガチックでもデフォルメされ過ぎてもいなくて、適当なリアル感を持った私には飽きのこないぬいぐるみだ。
このぬいぐるみは私が小さい頃からいて、よく遊んでいた。
袋にいる仔カンガルーを入れたり出したり、会話をさせたり。
でも、子どものすることは決まって小さいものを紛失する。
寸分違わず、仔カンガルーは私によって迷子にさせられた。
小さい私にしてみれば、どうして入っているはずの仔カンガルーが入ってないほうが不思議で、
見当たらなくなる度、母に、父に、ない、ではなく、居ないと大騒ぎを繰り返してたらしい。
またか、という顔の親たちだったとは思うけれど、私の遊んだ経緯を根気よく聞き取り調査をし、
どこからともなく仔カンガルーは袋に戻っていった。
そのたび、わーいと屈託なくよろこぶ私に親たちはほだされていただけに過ぎない、と今はわかる。
糸で繋がれたときもあったけれど、私は身動きとれない仔カンガルーを可哀想と嘆き、酷いと言ったそうだ。
ならばと、紐で手綱のように繋いでみたら、今度は袋からぶら下がった状態になり、それも痛くて酷いと泣いたそうだ。
とにかく、無くならないようにするのは、私の意に反することだったらしく、糸で繋がれることも手綱で繋がれることもなくなった。
そんなある日。
きっとひとしきりカンガルーのぬいぐるみで遊んだ後、数日の間カンガルーの存在を私少女は忘れていたのだろう。
ふと思い出して、カンガルーの袋に手を突っ込んだ。
いつものように、仔カンガルーが居ると思って。いつものように、仔カンガルーを袋から出そうと思って。
私は裏切られた。
出て来たのは、『カンガルー』と書かれた紙で形どられた仔カンガルーもどき。
雷に打たれたように、仔カンガルーが居ないと騒ぎ出す。
その声で、父はやっぱり駄目だったかと思い、母は後で探そうと思っていたことを忘れていたことに気付く。
今も袋の中には仔カンガルーがいる。
でも心無しか、毛が薄いのは気のせいだろうか。
迷子の痕跡が見て取れて、私は親カンガルーにごめんねと言う。
その度に、父と母がカンガルーと私の思い出を話し始める。
今年の年末は、続きを聞こう。
結局、どうやって仔カンガルーは見つかったのか、私は覚えていないのだから。
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【ミートソース】
(2人前)
スパゲティ … 200g
EXVオリーブオイル … 大さじ3
にんにく … 1片
鷹の爪 … 1本
玉ねぎ … 1個
牛肉 … 300g
ブランデー … 大さじ2
トマト … 1個
トマトペースト … 大さじ1
塩/胡椒 … 適当
デミグラスソース(缶) … 1/2缶
水 … 200cc
ローリエ … 2枚
セージ(ドライ) … 適当
ケチャップ … 適当
ウスターソース … 適当
醤油 … 小さじ1
生クリーム … 適当
ケイパー … 小さじ3
<作り方>
1.鍋にオリーブオイルを熱し、潰してみじん切りにしてにんにくと、
種を抜いた鷹の爪を炒め香りがたったら、玉ねぎを入れ炒める。
スパゲティを、茹で時間マイナス1分で茹でる。
2.1に細かく切った牛とトマト、トマトペーストを入れ、デミグラスソースと水を入れ、
塩、胡椒、ケチャプ、ウスターソース、醤油を入れ、ローリエとともに煮る。
3.全体の量が半分くらいになったら、生クリームとケイパーを入れ、一煮立ちさせる。
4.3に茹で上がったスパゲティを入れあおり、器に盛りセージを散らす。
ROMAKO の紹介
エッセイスト/料理研究家/フードアナリスト/Jr.オイスターマイスター
<発売中>エッセイ&レシピ『食感シーソー』ROMAKO著/文芸社/1,470円(税込)
『食べることは生きること』という信念を持って、イベント目線で日々の食をエッセイで綴る、簡単で食材の組み合わせに驚きのあるレシピを、ベル・グストの食材を使って提案します。