主よ御元に近づかん。

微動だにしない近衛兵の脇を通り、協会の中へ入る。
懐かしい写真を見ながらこの記事を書いているけれど、タイピングより気持ちが先走ってしまう。
もし、今飛べる羽があるなら、ドラえもんのどこでもドアがあるなら、私はそこへ行きたい。
跪き、頭を垂れ、降り注ぐ天空からの光に向かって手を合わせたい。
宗教はもたなくとも、神様を感じられるこの場所は、私を浄化してくれる。
その場所は、バチカン市国。
ローマに滞在していたときに、毎日通い続けた場所だ。
鐘の音で目を覚まし、カプチーノを飲んだら真っすぐ向かう日も在れば、
夕方間近午後4時の風が消えるあの場所に立つ日も在った。
円柱を右から左から眺め、1本になる妙を味合ったりしていた。
教会の中に入れば、ピエタのひと襞ひと襞丁寧に彫られた衣に感嘆し、
マリアの膝でもう息をしないイエス・キリストの体温を感じていたりした。
壁画や天井画のずっしりと迫り来る世界に、私が生きる時代を馳せてみたりもした。

人のざわめきも、靴音も、その全てが賛美歌のように響くこの空間は、
全てが慈愛に満ちていて立っているだけで深呼吸とともに自身が落ち着きを取り戻す。
歴史が積み重なった重厚だけれども、想いのたけが真綿のように私を包み、肩を抱かれている様な気持ちにさえなる。
生きる意味に答えはでずとも、存在を許された気分になって、ありがとうと言葉が漏れる。

ここはきっと世界の始まりから終わりまで見続け、見届けるのだと思う。

あまりに好きになり過ぎて、あまりにも感動しつづけて、私は毎夜毎夜神様の血をいただいた。
もちろん神様の肉もいただいた。
ローマのあのポッと灯る様なレストランのサインと、石畳に長く伸びる自分の影はとてもひっそりとしているのに、
ドアを開けた瞬間「ボンジョルノ!!!!」と迎えてくれる髭を蓄えた笑顔は、
今宵も貴女の神がお待ちですと言っているように感じられた。
ニューヨークともましてや東京とも全然違う、静寂と喧騒が見えない何かで分けられ、そして融合していたローマ。

当時よりももっと溶け込めそうな今、私は行きたい。
トレビの泉に『きっと帰って来ます。」と願いを込めて投じたコインが呼んでいるのだと思う。
毎晩飲み続けたワインも、食べ続けたパスタも、私の人生に欠かせないものになっている。
そしてかじり続けたホテルのフォカッチャ。
岩塩を噛みしだきながら、今日の予定を皆で決めていた朝。
ソファに深く座り、カンパリオレンジを飲んでいた朝。
それもそのはず、ラウンジのバーテンダーが私たちへのサービスをしつらえた後、仕事を終了するようになり、
入れ替わりにかけられる掃除機の音がソファの脇に聞こえても、私たちは足を上げるだけで許された。
その掃除機の余りの古さを笑うと、「日本製で気に入ってるんだ。」とポーズを決められた。
たくさんの笑顔と、太陽と、そして仲間たちとの時間が懐かしい。
写真の私はとても若くて、首も指も細すぎるけれど、上気している頬は化粧っ化がなくても許されている。

今日は12月1日。
未曾有の震災に襲われた日本で、クリスマスの飾り付けをする。
想いをバチカンに、願いを神に。
--------------------------------------------------
【ローズマリーのフォカッチャ】


 強力粉 … 260g
 塩 … 小さじ1/2
 ドライイースト … 小さじ1
 ぬるま湯(30℃くらい) … 200cc
 EXバージンオリーブオイル … 小さじ1
 結晶の塩 … 小さじ1
 ローズマリー(葉のみ) … 1枝分

 <作り方>
  1.強力粉を半分いれたボールの真ん中にくぼみを作り、ドライイーストをいれ、ぬるま湯を注ぎ混ぜる。
  2.混ざったら、残りの強力粉と塩を入れこね、まとまったらラップをして、
    40℃くらいの湯に、そのボールを入れ30分発酵させる(1.5倍くらいになるまで)
  3.オーブン皿にクッキングシートをひき、オリーブオイルを塗り、
    その上に2の生地を正方形に成形し、オリーブオイルを指につけながら穴をつくり、ローズマリーを散らす。
  4.オーブンに200℃の余熱をし、15分焼く。

ROMAKO の紹介

エッセイスト/料理研究家/フードアナリスト/Jr.オイスターマイスター <発売中>エッセイ&レシピ『食感シーソー』ROMAKO著/文芸社/1,470円(税込) 『食べることは生きること』という信念を持って、イベント目線で日々の食をエッセイで綴る、簡単で食材の組み合わせに驚きのあるレシピを、ベル・グストの食材を使って提案します。
This entry was posted in Bread, Cooking, Essay(いろいろと) and item: , , . Bookmark the permalink.

コメントは停止中です。